神経症的な人は二兎を追う
一度に二つも三つものことを同時にしようとする人がいる。
玄関にお客さんが来た。そのときにちょうど電話が鳴った。
電話にも出る、玄関にも出るなどということは不可能なことである。
こうした非現実的なことは、心理的パニックを引き起こす。
旅行から帰ってきた。家の中はちらかっている。
掃除をしなければならない。洗濯物もたくさんある。
明日までに揃えなければならない子供のものを買いにも
行かなければならない。その上、電気製品が壊れてしまった。
電気屋さんに電話して来てもらわなければならない。
ちょうどその時、近所の奥さんが遊びに来てしまった。
こんなとき用事いっさいを諦めるか、近所の奥さんに事情を話して
帰ってもらうしかない。帰ってもらってもどれから手をつけていいか
わからない状態である。
そんなときに落ち着いて一つ一つ片づけていける人が、
心理的に健康な人であり、自我基盤のしっかりした人である。
人間は一度に一つのことしかできない。
それなのに同時にいくつものことをしようとする。
そういう人が心理的パニックに陥るのである。
できないことは、できない、そこでできることを一つずつすませて
いかれる人が、神経症的ではないのである。
あせる気持ち、はやる気持ちを抑えて、しっかりと一つ一つのことに
集中して、一つずつすませていかれる人が、自我基盤の確立した人である。
あることを始めると、別のことが気になり、そっちを始める。
しかし、気持ちが落ち着かないで、また元のものに戻ったり、
さらに別のものに手を出したりして、結局何もできないという人がいる。
非現実的な要求をしているのである。
天候のいいときに、部屋の中で仕事をしながら、外の新鮮な空気を
吸おうとしても無理である。
また外の快適な気分を味わいながら、部屋の中で仕事をしようと
しても無理である。
両方しようとすれば、どちらも満足できない。
どちらをしていても集中できない。あせるだけである。