誰にも迷惑をかけていない
傍若無人という言葉がある。「傍(かたわら)に人無きが若(ごと)し」である。
傍に人はいる。しかし、人がいないかのごとくに振る舞う人が最近は多い。
傍に人がいるということに気がつかない。電車の中でお化粧をしている。
周囲の人は不快な気分になっている。
しかし、そのことは無視しているというか、他人の不快な気分に
気がつかないというか、まさに傍に人がいないかのごとくに振る舞っている。
自分は化粧をしたい。それが現実である。
しかし、他人はその化粧をしている姿を見たくない。不快である。
つまり、自分の現実と他人の現実は違う。
自分の現実と他人の現実とが違うということを知っている人は、
電車の中で化粧をしない。
人と親しくなれる人は、相手が嫌がることをしない。
人と親しくなれない人は、相手が嫌がっているということが分からない。
人はそこにいるけれども、人は彼女らの心の中にはいない。
これがナルシストである。
つまりナルシストというのは、心理的に人とかかわっていない。
自分が唯一の重要な現実なのである。
平気で道路に唾を吐く人もいる。音を立てながらスープを吸う人もいる。
自分のしていることがどのくらい人にとって不愉快であるかに
気がつくようになれば、人間関係はうまくいきだす。
これは実はマナーの問題である。
車内でお化粧をするのも、マナーがないということである。
マナーの悪い人は、一口で言えば社会性がない。
社会性がないということは、大人になれていないということである。
そして、このマナーの悪い人達の言うことが、「誰にも迷惑をかけていない」である。
援助交際をしている女子学生の言うこともこれである。
まともに成長してナルシシズムが消化されていれば、
「誰にも迷惑をかけていない」などというような愚かなことは言わない。
マナーの悪い人は、周囲の人を不快な気分にするというように、
十分迷惑をかけているのである。
彼らには他人という現実がないから、
迷惑をかけていても迷惑をかけているということに気がつかない。