神経症的傾向の強い二人

男性の昔の恋人の写真が出てきた。それを見て女性のほうは怒らなかった。
男性はどうしていいかわからないで、その写真を棚の上に飾った。

女性が破ることを期待したからである。
しかし女性は、その写真の前に花を飾ってしまった。

「あなたが喜ぶならば」と女性は言う。
女性は心の敵意を抑圧するしかない。

この二人はふれあっていない。
「悔しい!」と言って写真を破る恋人のほうが、心はふれあっている。

「うるさいな、済んだことだろう」と怒る男性のほうが、心がふれあっている。
この二人がこうして喧嘩をしていれば、この問題は決着がついたに違いない。

しかし、二人はこの問題でもっと溝が深まってしまった。
この神経症的女性は、愛情の要求の仕方が分からないのである。
男性のほうもどうしていいか分からない。

この女性は「お茶入れますか?」と聞く。
男性のほうも「うー」と言う。

二人とも自分の意思を曖昧にしておく。
そして相手が歩み寄るのを待っている。

自分の意思をはっきりと言って嫌われるのが怖いのである。
自分の意思をはっきりと言って相手の意思から外れるのが怖い。

「お茶を入れましょう」とも言わないし、
「コーヒーがいいですか、それとも紅茶?」とも聞かない。

聞かれたほうも「結構です」とも言わない。
お互いに相手のためを思いながら心がふれあわない。