あいつより低く評価しないでくれ

「人はそれぞれ違う」と言うときには危険がある。
例えば燃え尽きる人達が「人はそれぞれ違う」と言う。確かにその通りである。

しかしいつも「人はそれぞれ違う」と言う人が、必ずしも
人それぞれの違いを認識しているわけではないことがある。

そう主張することによって、自分が世間からありのままの自分として
評価されることを避けようとしているのである。

世間一般の基準で評価されたのでは、自分は「ある人」より低い評価になってしまう。
それは耐えられない。

「ある人」とは、例えば自分が張りあっている人である。
それは会社の同僚かもしれないし、兄弟かもしれない。

そういう人に心の底で負けているので、そこで「人はそれぞれ違う」と叫ぶ。
そういう意味では、そう叫ぶ人は競争意識が強い。

敵対意識が強いと言っていいかもしれない。劣等感をもっている。
とにかくいつも人と張り合っている。

自分がある人よりも劣っていると感じている。しかしそれに耐えられない。
それを認めることができない。

そこで「人はそれぞれみな違う」と言う。
つまり「俺をあいつより低く評価しないでくれ」ということである。

劣等感をもっている人は、やることなすことほとんどすべてが自分を守るためのことである。
しかし、言っていることが正しいからつい、その動機に注意がいかない。
「人はそれぞれ違う」という叫びも言葉通りの意味ではない。

自分に自信がない。でも高く評価してもらいたい。
「俺は価値が低いのではない、みんなと違うのだ」と叫んでいるのである。

だから、人はみなそれぞれ違うということを言っている人にかぎって、
人それぞれの違いに気がつかないことが多い。生身の人間として相手を見ていない人々であったりする。