人によってできることは違う

心理的に健康な人の前には選択肢がある。
しかしうつ病になるような人の前には選択肢はない。

心理的に健康な人にはこの違いがどうしても理解できない。
選択肢のある人は、選択肢のない人の行動をよく誤解する。

ある人は熱いコーヒーしか入れられない。それしか飲み物を知らない。
冬の寒い時に知人が来た。そこで自分が知っている唯一の
飲み物である熱いコーヒーを出した。その知人は喜んで帰った。

次に来た時には熱い夏だった。その時も同じように熱いコーヒーが出された。
その知人は、「この人は思いやりの心がない」と思った。

こんな暑い時には冷たい水でも出してくれればいいだろうと、
その人は思った。しかしこの知人は間違っている。

相手は思いやりの心がないのではなく、この人は熱いコーヒーしか
入れられないのである。

このようなことが、うつ病者と心理的に健康な人がお互いに
どうしても理解し合えない点である。

心理的に健康な人は、自分ができることは、うつ病者もできると思っている。
自分ができることは、人間誰でもできることではなく、
たまたま愛情という点で恵まれた環境の中で育まれた能力だとは気がつかない。

またうつ病者も、心理的に健康な人の対処能力は、心理的に健康な人が
必死で状況と戦う中で身につけた能力であることに気がつかない。

「強い人はいいよ」といった類いの解釈になってしまう。
心理的に健康な人も対処能力を持って生まれてきたのではない。
命がけの戦いの中で身につけたものなのである。