実際の彼女と理想の恋人像との違いが分からなくなってしまった

神経症者の男性がある女性を好きになる。すると熱し易くてすぐカーッとなる。
その女性がまるで人類の中で最も素晴らしい女性であるかのように思い始める。

まるで人間ではなく女神の如くにその女性を本気で思い込む。
こんな時たいていこの男性は全くといっていいほど、実際にはどんな女性であるか
などということを見ていない。

その女性を通して自分の理想の女性像を見ているだけなのである。
その理想の女性像というのは、たいていその男性の幼児性を受け入れてくれる女性、
その男性の依存性を受け入れてくれる女性、要するにその男性の甘えを許して
くれる女性である。

決して自分のやることに文句を言わない女性であり、母の如く自分を無条件に
受け入れてくれる女性であり、決して自分を見捨てない女性である。

自分がこうあってほしいという恋人像をその女性に押しつけて、その恋人の
実際のあり方に眼を向けない。

完全な恋人、絶対の恋人、永遠の恋人、自分が不誠実であっても自分に対して
忠実を誓い続ける恋人、こんな恋人像だけを見て、実際のその女性を見ていない。

そしてその実際の女性が、どうも自分の思い込んでいた女性とは違うと分かると
激しく落胆し裏切られたかの如く感じる。

見損なったというようなことを言い出す。
その女性像は彼の神経症的要求を叶えてくれて、彼の心の中の問題を一挙に解決
してくれるようなものなのである。

だからこそ彼は異常に熱をあげたし、その女性に執着した。
しかしそれは実際のその女性にしがみついたのではなく、自分の心の中の理想の
女性像にしがみついたのである。

そして、どうもその女性が自分が期待した通りには動かない。
自分にだけ尽くすべきだと思っていると他の人にも親切にする。

自分のわがままはどんなことでも受け入れるべきだと思っていると不満な顔をする。
自分のことを限りなく尊敬すべきだと思うと欠点を指摘する。

どんなに扱われてもニコニコしているべきだと思うのに、ちょっと親密に
しないでいると文句を言う。

そしてついに裏切られたと憎む。そしてその恋人の不誠実さなどを責める。
その責める時の基準が非人間的なほどものすごい基準である。

まさに実際の恋人を一度も見ようとはせずに、心の中の理想を相手に投影した
この恋人を憎み責めるのと同じことを、自分について神経症者はしているのである。