自分で自分を追い込んでいく

あるサラリーマンが昇進した。彼は有能であり、よく働いた。
ところが、彼はこの昇進を機にうつ状態に入っていく。

酒が過ぎるようになる。睡眠薬を飲むようになる。
彼は昇進してプレッシャーを感じたのである。

彼は普通の成功では満足できなかった。
人よりも成功しないと満足できない男であった。

その彼の傾向が昇進をプレッシャーに変えてしまったのである。
やがて彼は精神医にかかることになる。

彼は事実としての能力があった。しかし彼は自分で自分を追い込んでいく。
先ず激しい成功への欲求があるために、かえって成功した時、自分は成功に
値しない人間ではないかと恐れる。

自分は自分のポストにふさわしい能力をもっていないのではないか、と彼は感じる。
そして彼は、これを「仕事のプレッシャー」と説明するが、これは仕事のプレッシャーと
いうよりも自分が一人で勝手につくったプレッシャーである。

そのポストへの執着が、そのポストを失うことの恐れとなってあらわれる。
従って、失ったら大変だと毎日ストレスを感じる。

彼の感じているプレッシャーは、仕事そのもののプレッシャーではなく、
そのポストへの執着が生み出したプレッシャーである。

そして、やがて「この仕事は自分の能力にはあまりまる」と感じ始める。
このようなタイプは仕事をやればやるほど、余計仕事をしなければならないように感じ始める。

自分はこのポストにふさわしい能力をもっていないのではないかという不安が、
逆に自分にも皆にも、このポストにふさわしい能力をもっていると誇示しようとする。

誇示しようとすればするほど、自分の能力への不安は増し、ストレスは堆積する。
やがて、皆は自分をこのポストから追い出そうとしているのではないかという妄想に
とらわれはじめる。

そして敵によって占拠されているように自分の周囲の世界を見はじめる。
世界は自分を脅かす、と彼は思う。
しかし彼が勝手に世界をそのように心の中でつくりあげてしまっただけなのである。

自分の成功に自分は値しないのではないかと、はじめに解釈したのは自分なのである。
自分が脅えているということも本当だが、同時に自分は昇進できたということも本当なのである。

昇進できる実力がなければ昇進できない。
しかしうつ病になるような人は、このような事実は無視する。
自分には能力がないという考えにとりつかれてしまう。